2016.08.22 Mon

世界で続々と賞を獲る福岡発の楽器「KAGURA」 開発者・中村さんの軽やかでユニークな仕事術

#FUKUOKAより転載(2016/7/19掲載)

PCにセットしたカメラの前で体を動かし、動きを音楽に変換して演奏する楽器アプリケーション「KAGURA」。国内はもちろん、米国の技術コンテストやヨーロッパの音楽フェスなどでも次々にグランプリを獲得し、俄然注目を集めています。

そんなKAGURAの開発者・中村俊介さんは、福岡市に本社を構える株式会社しくみデザインの代表取締役でもあります。新時代のユニークな楽器をプレゼンするために世界を飛び回り、一方では企業の代表として経営の舵をとる中村さん。そのバランス感覚は、KAGURAを演奏するときのように軽やか。アートと仕事の領域を自由に横断し、福岡から世界へと発信する中村さんに、お話を聞いてきました。

--平成25(2013)年には米国Intel社の「Intel Perceptual Computing Challenge 2013」で1位を獲得し、今年6月にはヨーロッパ最大級のエレクトロニック・ミュージック・フェス「Sónar 2016」の「Startup Competition」でも優勝と、「KAGURA」は着実に世界での評価を高めていますね。

中村 ありがとうございます。KAGURA(当時は「神楽」)は僕が九州芸術工科大学の大学院生だった平成14(2002)年に開発したもので、当初はメディアアート作品でした。ですが、あるコンテストをきっかけに、「完結したメディアアート作品」よりも、広く人の手に渡って使ってもらう「楽器」として位置付け直したいと考えて、平成25(2013)年より、今の時代にあった形での再開発を始めて、少しずつ改良を加えていきました。いまはKAGURAが世界に広がって、たくさんの高い評価をいただけていることがとても嬉しいですね。

--KAGURAを作ったもともとの動機は何だったんですか?

中村 楽器ができないという僕のコンプレックスです。音楽が好きで、カッコよく楽器を弾きたいのに練習は大嫌いなんです(笑)。だから、いつまでも楽器ができるようにならなくて、それなら自分で作るかなと。僕にとっては、コツコツ地道に練習するよりも、新しい楽器を作る方が簡単だった、ということでしょうね。

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--KAGURAが世界で評価されているポイントは、何だと思いますか?

中村 まずは、“ちょっとした未来感”があること。それから、誰でも簡単に始められるのに、使い込んでいけばどんどんカッコよく演奏できるようになること、でしょうか。楽器って、昔から世界中の人が新しく作りたいもののひとつなんだと思います。でも、新しい楽器がいまいち定着しないのは、「作った本人が一番うまく使いこなせる、結局作った本人のためのもの」という状態から先に進めないからではないかなと。一方、KAGURAは、すでに演奏者として僕よりも上手な人はたくさんいますし、センスのある人がプレイすれば、その人独自の音楽になります。多くの楽器は、始める時の敷居が高くて、かつ、使い込んでいけばいくほど楽しくなる奥行きがある。でもKAGURAは、敷居は下げてとっつきやすくしたまま、奥行きはある設計にしているんです。僕と同じように、楽器をやりたくてもできない人が、その入り込みやすさから楽しんでもらえてるんだと思います。

--KAGURAは日本とアメリカ、ヨーロッパなど、世界の各地域でのコンテストで優勝経験がありますね。地域の違いや、受け入れられ方の違いは感じますか?

中村 アメリカは、新しいものに敏感で、火がついたらバッと一気に盛り上がりますが、熱も冷めやすい印象ですね。ヨーロッパは、新しいものに寛容でありながら、もう少し歴史や伝統を重んじている感覚があります。先日のSónar 2016では、「KAGURAをオーケストラで使ったらどう?」なんてアドバイスもいただきました。僕は、KAGURAをアプリではなく文化として定着させていきたいと思っているので、楽器として認識してもらえて嬉しかったですね。日本の場合は、まだそのどちらにもいってないと思います。日本は、いまだに海外からの“逆輸入”に弱いですから(苦笑)。

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--どんどん有名になりつつある「KAGURA」ですが、中村さんは一方で企業の代表でもあります。全く性格の違う2つの仕事を、よく両立できますね。

中村 いや、全然両立できていませんよ(笑)。平成17(2005)年に会社を設立して最初の2年間で、エンジニアやデザイナーとしての能力は他のメンバーにすっかり追い抜かれましたから。それ以降は、開発やデザインは彼らに任せて、僕は広告塔として外に出たり雑用を担当する係です。

--しくみデザインでは、どんな事業を展開しているんですか?

中村 しくみデザインはもともと、九州芸術工科大学の優秀な学生たちを集めて作った会社です。KAGURAとルーツは一緒で、KAGURAで基礎を作った「リアルタイムにカメラの画像を絵や音に変換する」という技術を使って、イベントや広告などを作成しています。平成19(2007)年頃から徐々に認知されてきたインタラクティブ広告や、デジタルサイネージと言われる分野を、まだ日本で理解が進むずっと前から手がけていました。十数年に渡り、このジャンルに特化し続けているのはうちの会社だけなので、優位性はまだあります。しかし、4年ぐらい前からは技術的にもコスト的にも制作が容易になって、たくさんの企業が真似をするようになり、状況が変わりつつあります。世の中の需要が増えてきたという意味では、僕らにとってもいいことなのですが、市場が安定期に入ってきたとも言えるので、別のことをやる必要がある……平成17(2005)年の開発後、約8年間眠らせていたKAGURAの再開発を始めたのには、そういった経緯もあるんです。

--なるほど。デジタルサイネージ等の分野では、内容や発注の規模からしても、福岡より東京の仕事の方が多いですか?

中村 ええ、ほとんどそうですね。最低でも2週間に一度は東京に行ってミーティングをしていますし、向こうに部屋も借りています。

--それでも、わざわざ福岡に拠点を構えている理由は何なのでしょうか。

中村 よく言われることですが、デザイナーやプログラマーといったクリエイティブ系の職種の人は、場所に縛られずに仕事ができるし、福岡は大学院以来親しんできた場所で、住環境もいいですからね。「いつ東京に来るんだ」とよく聞かれますし、実際に向こうに会社を移したら、売上も3倍くらいにはなりそうですが、その代わり仕事量も3倍になって、疲弊するのは目に見えています。それよりも、相対的に見てバランスのいいところにいて、質の高い仕事をした方がいいですよね。それに、福岡の市場だけを考えて仕事をするのは規模が小さすぎるので、必然的に海外を含めた他の都市に目が向くようになることも、福岡にいるメリットだと思いますね。

--確かに、そういうスタンスで福岡と東京を往復して活動されている方が、最近多いですね。

中村 そうなんです。それでひとつ提案なんですが、福岡と東京を仕事のために定期的に往復している人を対象に、福岡-東京間の定期便を、福岡市のサポートで作ってくれませんか? 福岡の重要人物が一堂に集まる飛行機です。隣の席の人と名刺交換したり、新しいビジネスがたくさん生まれていきそうな気がして、面白いなと。

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--移動の意味が変わる、楽しいアイデアですね! では最後にKAGURAとしくみデザインの、今後の展開を教えてください。

中村 KAGURAはこれから、開発資金集めとプロモーションのために、米国でもっとも有名なクラウドファンディングサービス「Kickstarter」を始めます。そして、年内をめどに、現在β版としてリリースされているKAGURAの正規版がリリースできればと思います。しくみデザインとしても、既存のビジネスを継続しつつ、KAGURAを新しいビジネスの柱として大きく展開できればと思っています。

【プロフィール】
中村俊介(なかむら・しゅんすけ)
昭和50(1975)年生まれ。株式会社しくみデザイン代表取締役、芸術工学博士。名古屋大学建築学科を卒業後、九州芸術工科大学大学院(現在は九州大学・芸術工学研究院)へ進学。在学中に開発した新世代楽器アプリ「KAGURA」が注目をあびたことをきっかけに、平成17年にCTO(最高技術責任者)として有限会社しくみデザインを設立。インタラクティブなデジタルサイネージ広告やアトラクションの制作という、新しいビジネスの分野を切り開いた。「KAGURA」は会社設立後も開発を続け、平成28(2016)年内には、一般向け正規版リリースを予定している。

【関連リンク】
KAGURA
https://www.kagura.cc
株式会社しくみデザイン
http://www.shikumi.co.jp/