ビジネスマンから不動の人気を誇る福岡市。
家賃や通勤時間など”働きやすさ”の話は良く聞きますが、経営視点でみたビジネス拠点としての福岡市のポテンシャルはどうなのでしょうか?
実際に福岡市に拠点進出したさまざまな企業の”リアル”をリレー形式でお届けします。
【第3弾:株式会社スクランブルズ 様】
今回訪問したのは、『BiSH』や『豆柴の大群』など人気アーティストの楽曲を手掛けている音楽制作プロダクション【株式会社スクランブルズ】様。現在は主に福岡で活動されている、著名な音楽プロデューサーでもある同社代表取締役の松隈ケンタさんにお話を伺いました。
プロフィール

松隈ケンタ
福岡県出身。
音楽制作集団スクランブルズ代表/作曲家/音楽プロデューサー。日本経済大学 特命教授。
BiSH、BiS、豆柴の大群、EMPiREなどWACKグループのサウンドプロデュースや、中川 翔子、柴咲コウ、Kis-My-Ft2等、数多くのアーティストを手がける傍ら、音楽セミナーを行うなど新人アーティスト育成にも力を入れている。
オンライン番組「iichiko ROCK!」のMCや、NHK福岡にてラジオ番組「六本松サテライト」のメインMCを担当するなど、地元福岡でも精力的に活動。
自身が率いるロックバンドBuzz72+としても活躍している。
今、福岡ではどのような事業を展開されていますか?
松隈さん「まずメインは音楽制作事業ですね。主題歌やテーマソングなどのJ-POPが主にはなるのですが、映画・ドラマやCMの「劇伴」と呼ばれるBGMも手掛けています。最近では、NHKの『みんなのうた』だったり、ホークス・アビスパの音楽も福岡のオフィスで制作しているんです。CMだと、福岡市のガン検診の歌を歌ったりしていますね。さらに、音楽スクールも開校しました。こどもの人口が減ってきている中で、やっぱりもっと音楽の裾野を広げていきたいという思いがあるんです。福岡と東京に4校、200人近くの生徒が在籍しています。また、音楽をきっかけにいろいろな人と知り合うことの楽しさを若者に教えたいという想いから、福岡だけの事業として、バーとライブハウスもやっています。」
松隈さんは地元久留米でバンド活動を始めたのち、上京してメジャーデビューを飾り、現在では様々なアーティストの楽曲をプロデュースされています。著名な活動をされている中で、福岡市に拠点を移そうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
松隈さん「25歳で上京して13年間都会の波に揉まれたんですけど、やっぱり地元に愛着がありました。バンドはツアーで年中全国をまわっているので、家賃の高い東京ではなく、地元に住んでいる人も結構いたんですが、レコーディングや編集などの『楽曲制作』は、地方でやっている人はほとんどいませんでした。音楽関連の会社はみんな東京に集中していましたので、「作曲」チーム単体での仕事が地方にあるかどうかも不安でした。でも最近になって、技術が進歩してリモートで楽曲制作ができる体制が整ったので、思い切って福岡に戻るのもいいかなと思ったんです。ゲーム系や映像系の会社はバンバン福岡にきているので、それは羨ましいなと思っていましたね。」
前例のない中で、最終的に福岡に拠点を移すことに至る決め手はありましたか?
松隈さん「決定打は娘ですね。そのとき2歳ぐらいで、もうすぐ喋りそうだったんです。やっぱり、九州弁を喋ってほしくて(笑)。ミュージシャンの先輩がみんな同じこと言うんですよ、小学校にあがる前に早めに帰れと。娘が東京の人間になるから、家の中が多民族国家になってしまうぞと。冗談半分ですけど、割と本当の話で、いつか福岡に帰りたいなというのはずっと考えていました。僕は10年以上東京にいたんですけど、やっぱり娘には九州人になってほしかった。今4歳になったんですけど、ちゃんと九州弁を喋ってくれて…よかった〜本当に(笑)。」
オフィスを開設する物件や立地はどのように探されたのでしょうか?
松隈さん「最初は春日市に音楽スタジオをつくりました。騒音などのトラブルを考えると、福岡市内の中心地にいきなりビルを借りるのはリスクが高かったので、郊外にしたんです。ただ、やはり拠点は福岡市内にしたかったので、親不孝通りにもオフィスを借りました。その後、ミュージシャンが集まるバーをつくりたいという想いもあり、制作拠点であるオフィスとバーが併設できる場所を探して移転したのが、現在の今泉のオフィスです。」


ミュージシャンが交流できる場所を創るという想いから、バーを併設
東京が本拠地で福岡がサテライトといった役割なのでしょうか?
松隈さん「最初は、自分と、長崎と大分出身の夫婦のスタッフと一緒に3人で戻ってきたんですが、今は10人ほどで派手に事業を展開しているので、そういった意味では逆転していますね。最近では、東京に行くのも1~2か月に1回程度になりました。まだ収益的には東京の方が中心になっている部分もありますが、僕がやりたいのは、地産地消で音楽のビジネスをまわしていくことなんです。福岡にもたくさんの企業やスポーツチームがあって、独自の芸能界も街の音楽もあるわけで。それらのCMやタイアップで、地元のアーティストを使ってもらえるようになったらいいなと思っています。今は映像全盛期ですし、音は必要不可欠なものじゃないですか。福岡の中で、音楽ビジネスがやっていける環境をつくっていきたいですね。」
最近ではいろいろな働き方があると思うのですが、オフィスがあることの価値について、どのようにお考えですか?
松隈さん「僕はこう見えて技術系の人間なので、なにごとも場所ありきだと思っています。場所があると、そこにカルチャーが生まれ、伝統や技術が継承されていくじゃないですか。だから、オフィスがなくてもできる仕事もありますが、うちはなるだけオフィスに集まることを意識しています。家賃はかかりますけど、仕事は集まってやった方が楽しいじゃないですか(笑)。」
たしかに、人と顔を合わせることで生まれる創作の魅力ってありますよね!コロナ禍は、よりリアルで集まることの重要性を感じるきっかけになったと思います。
松隈さん「そうそう。作曲家は、家で作業するイメージがあると思うんですけど、うちはクリエイターを必ずオフィスで作業させているんですよ。家では趣味や家族や自分の好きなことを大事にするように言っています。オフィスに来る時間を縛っているわけではないので、『クリエイターたちのシェアオフィス』という表現が近いですね。お互いの得意なスキルをシェアできる環境だったり、『みんなでつくろう』という雰囲気が好きなのは、バンドマンの思考かもしれないですね。」


クリエイターが集まって制作作業に没頭するオフィスと、併設するスクール用スタジオ
実際に東京から福岡に転勤してみて、感じる福岡のよさはありますか?
松隈さん「これは一回、福岡に住むと分かると思うんですが、少し移動するだけで温泉も子どもの遊ぶところもあるので、東京とは娯楽が全然違いますね。あとは食べ物。東京にいるときは、「なんとなく、福岡の方がおいしい気がするよな〜」くらいの感覚だったんですが、両方を行き来するようになると、むちゃくちゃわかるんですよ。東京に一泊した方が楽なときも、帰ります。最終便で(笑)。それくらい晩飯を福岡で食べたくなるんです。」
都心部はいろんなものが揃っていますし、エンタメにふれる機会というのも多いとは思うんですけど、福岡の食べ物のおいしさや自然の豊かさ、通勤時間の短さを考えると、福岡はクリエイターにとってすごく働きやすい街じゃないかと思います。
松隈さん「東京も地方もそれぞれ良さがありますけども、僕は双方から見る視点というのが一番大事だと思っています。東京は常に最新の情報や流行が入ってきていて、刺激がありますよね。地方に行くとその流行がだいぶ遅いんです。どれだけ東京で流行っていても、リアルタイムで地方には届かないところがあって。タピオカくるのもだいぶ遅かったですよね(笑)。一方で、福岡では僕のやっているアーティストが1つCM決まると、どわーっと地元の人に広まるんです。でも東京だと情報に埋もれてしまって、CM見たよと言ってもらえることが少ない。2拠点生活すると、そういった違いが両側から見られるので、すごくおもしろいです。」
日本全国で見たら、圧倒的に地方の方が人口多いですもんね。地方の文化や生活観は、東京とはまた違うところがありますし。東京の流行りが、日本全体のメジャーかというと…
松隈さん「意外とそうじゃない。1千万人が東京で、残りの1億人は地方に住んでいるわけですから。
最近地方に進出する事業が多いので、そこに皆気づき始めたんじゃないかかな、と思います。逆に、今後は地方の独自化が一気に加速していくんじゃないかと思いますね。中国やアメリカの省や州というのは、1つの国みたいになっているらしくて、地域ごとに流行りの音楽や食べ物が全然違って独自の文化圏を築いている。もしかしたら日本では、それを福岡が最初につくりだそうとしているように僕は感じていて。だからこそ、独自の福岡というものを押し出して、福岡の中で地産地消で音楽が広まっていけるようにしたい。街の音楽で食べていけるようなエンタメ文化をつくりたいんです。」


オフィス内で松隈さんが使用する制作スタジオ
福岡だからこそできる、尖ったクリエイティブやビジネスをやっていく方向に、うまくスイッチできたらと思いますよね。松隈さんが押し出したい、福岡の独自性はどういったところでしょうか?
松隈さん「よくスポーツが強い県ってあると思うんですが、僕はまず福岡を『音楽が強い県』にしたいですね。異常に若者がギターをしょって歩いているとか(笑)。あとは福岡で聴かれている音楽チャートが異常に地元のアーティストで埋まるとか。それだけ音楽と芸能に関して、福岡は自信をもっていい都市だと僕は思っています。それに、福岡の人はおもてなしの精神があって、人に対して優しいじゃないですか。この県民性って、本当に全国に誇れると思います。また、福岡はお祭りや屋台など一体感のある文化も多いので、異業種が交流できる集会をやりたいですね。そうした横のつながりが強くなることで変な壁も壊せると思っていますし、規模感がちょうどいい街で一体感を持つことは大事だと思います。」
福岡に市場性とビジネスチャンスがあれば、わざわざ東京に行かずとも、福岡から新しい文化をつくって世界に発信するというムーブメントを起こすことができますよね。
松隈さん「むしろ移住してきて、福岡でデビューしようと思ってもらえるところまで行けたら最高ですね。そういう人がでてきてくれると嬉しいなと。福岡はアジアにも近いので、アジアのアーティストと一緒にライブをやるのも楽しいと思います。こっちに来たくなる要素はたっぷりあるので、ライブも福岡だけでちゃんとお客さんが集まるようなことをやりたい。実は早速、今年の4月24日(日)に僕のバンドのBuzz72+をはじめとする地元アーティストが出演する「BAD KNee ROCKs!! Vol.2」というイベントを企画しているところなんです。ライブハウスとバーの2会場で実施するんですが、こうして手がけてきた事業で福岡を盛り上げていけたら嬉しいですね。コロナ禍が明けたらまたどうなっちゃうんだろうと楽しみです。」
今、福岡進出を検討している方は、それこそ福岡でうまくやっていけるのかという漠然とした不安を抱えていると思うのですが、松隈さんのような前例は、そうした人たちに勇気を与えてくれると思います。
松隈さん「東京でも福岡でもどちらにせよ、不安なのであれば進出しないと!だから今悩んでいて、このインタビューを参考にしている時点で、もう『行く』一択でしょうね(笑)。」
株式会社スクランブルズとは
2014年4月3日設立。音楽制作チーム“スクランブルズ”としてアーティストへの楽曲提供をはじめ、ゲームBGMからCM音楽、サウンドロゴまで幅広く手がけています。 東京と福岡に拠点を構え、自社スタジオ(大岡山・下北沢・天神・福岡)にて音楽スクールを運営し若手クリエイター・プレイヤーの育成も。福岡支社ではカフェ&バーとライブハウスの運営も行い、音楽にまつわるカルチャーを発信しています。

企業公式HP
https://scrambles.jp/
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福岡市中央区今泉1-13-5 ブルク今泉3F
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